高校の時に強歩大会という行事があった。男子は33kmだった。11月だったと思うが3年になっても当たり前のように走ったので三年間で約100km走ったことになる。
 「走った」と書いたが、行事は「強歩大会」なので走るという言葉が使われておらず、走らなくてもいいという大会名称になっている。教師もよく考えたものだ。「走らなくてもいい行事なのですが生徒は意欲があって走ってしまうんですよ」ということにできるネーミングだと思っていた。
 今キーボードを叩いていて気がついたが、「きょうほ」と打つと「匡輔」、「享保」、「競歩」と出てきて次は「凶報」になってしまう。辞書には載っていない言葉なのだ。教師が上述のようにあれこれ考えてつくった造語だったのだろうか。  
 行事の前の1か月くらい、体育の授業は1時間走ってばかりだ。クラスメイトの大半は「なんでこんなものがあるんだ!?」と不満の方が多かったと思う。オーストラリアから来ていた留学生は本気で帰りたいと思っていたらしい。
 自分も優勝を狙うなんてことはさらさらなく、まあ運動部ではあるしそれなりにこなせればいいと思っていた。しかし、競歩大会が一週間に迫った頃である、部活が終わった後のミーティングで先輩からお達しがあった。「1年は100位以内に入らなかったら、ワンマンだぞ」と。簡単に言えば、昭和のしごきだ。100位くらいならどうってことないだろうと思うかもしれないが、一学年10クラスで当時は1クラス46人だった。共学校なのに共学クラスは10クラス中4クラスしかなかった。自分なんぞは三年間とも男子クラスだ。男子がやたらと多かったわけで三学年みんな走る中には陸上の長距離の人、野球部、サッカー部など本気で走る人もいる。100位に食い込むのはかなりきついのではないかと1年の自分たちには思われた。
 何人か集まって作戦を練った。学校をスタートして隣の市や町を大きく回って学校に帰ってくるコースで、チェックポイントが何カ所もありカードにスタンプを押さねばならない。カードを持っているのは走りにくい。ナップサックにみんなのを入れて交代で背負ってはどうかということになった。最初に持ったのは自分だった。四人か五人だか忘れたがみんなのカードを入れて、タオルも入れて誰かがあめ玉なんかまで入れて想定よりもいろんなものが入ってしまった。
 これは失敗だった。SとKが遅れはじめた。カードは自分の背中だ。どうしようかと思ったが、併走している仲間も遅れたくはない。しばらくするとKが追いついてきた。「Sと俺のカードをくれ」と言って下がっていった。「おう」とだけ返すのが精一杯だった。浅はかだった。ナップサックが邪魔になってきた。あめ玉の入った缶がカラカラとうるさい。
 自分が何位かわからないが、あと数k2026.08.18強歩大会mとなったころ、ナップサックを道ばたに捨てた。ゴールまでがむしゃらに走った。確か96位だったと思う。100位以内に入れてほっとした。
 しばらくしてナップサックを拾いに行こうと自転車でコースにもどった。夢中だったのでどこで投げ捨てたのかよくわからずようやく見つけて拾いあげ学校に戻ろうとすると、後ろから「おい、お前、ちょっと待てっ!」と声をかけられた。交通整理や生徒の安全のために立っていた先生が自分を見つけて走ってきた。どうやら途中自転車に乗ってずるをしようとした不届き者と思われたらしい。「かくかくしかじかで拾いに来たんです」と説明したものの、ゼッケンは何番だ?チェックカードを見せろ、後で確認するからな、と厳しく言われてしまった。
 机の中を整理していて出てきた三つの完走バッジを見てあれこれ思い出してしまった。三色なのは三年生のジャージの色が対応しているのだろう。
 今、気がついたが「完走バッジ」と書いてあるじゃないか。強歩大会と称しているが33km走るのが前提だったということか。

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