思うところがあって先月は魯迅に関する本を読んだ。手元にあるのはこれで終わりなのでひと区切りとしようと思う。時間があればこれからは作品自体をテキストに当たりながら読んでみたいと思う。
固めて読むというのはなかなかいい。自分で復習しながら読んでいるようなもので小さい気づきもあるし、記憶に残りやすい。ひとつの読書の方法だと思うが、積んである本が減らないのも困る。
『NHK人間講座』という教育テレビの番
組がその昔あって、2003年2月から3月に9回にわたって藤井省三氏の講義があった。そのテキストが本棚にあって引っ張り出して読んだ。ドラマも続けてみるというのが苦手で、この23年前のテキストも買っただけで番組は見なかった。今見るとよくまとめてあり(上から目線だが)、読み応えもある。560円(税抜き)なら安いものだ。
この番組は『NHK市民大学』、『NHK人間大学』という番組に続くもので、調べてみると講師陣は錚々たる人たちだ。もっと見ておけば良かったと思う。今でもこの枠は『先人たちの底力 知恵泉』や『100分de名著』といった番組が引き継いでいる形だと思われるが、なんとか視聴者にくいついてもらいたいという考えからか柔らかい切り口になりすぎていると思う。番組と連動するテキストも今はないようだ。今は若い人と話をしていて、「Eテレ」とか「教育テレビ」なんて言っても通じないかもしれない。何かについて知る必要があればYouTubeで検索して探せばいいと思って、はなからテレビというメディアは眼中にないかもしれない。そして製作サイドは、くいついてもらおうとさらに柔らかくするという変なすれ違いが起きるたりするのか。
話が逸れたが、魯迅の生まれから父の死、日本への留学、北京・上海時代そして死、のあとに日本や東アジアでの受容について述べている。魯迅が仙台から東京に戻った要因の一つを、シティボーイだったからと言っているのもおもしろい。
このあとで同じく藤井氏の『魯迅――東アジアを生きる文学』を読んだ。構成は『人間講座』のテキスト『新・魯迅のすすめ』とほぼ同じである。藤井氏が留学時代に紹興で撮った写真も同じだ。「あとがき」に「……NHK人間講座で『新・魯迅のすすめ』をお話しし、そして古典新訳文庫として『故郷/阿Q正伝』『酒楼にて/非攻』の二冊の短編集を翻訳しました。このような私の魯迅体験をもとに、最新の研究と批評とを加筆してまとめたものが本書」だとあるのを最初に見ていたら読まなかったかもしれないと思った。
『故郷』が中学の国語の教科書に採用されていることは今までも何回か触れたが、『新・魯迅のすすめ』では氏は竹内好の訳について次のように述べている。「またこれらの国語教科書がすべてを竹内好訳を採用しているのは、竹内魯迅の影響力の大きさを示すものだろう。もっとも魯迅の文章は読点「、」による点切りを伴いつつ数行にわたって続き、その間にさまざまな思考をめぐらす屈折の多い文体を特徴とするのだが、竹内訳は句点「。」を多用して漢文調のように歯切れよく刻んでしまうことが多い。このような翻訳はリズミカルではあるが、魯迅が描こうとしていた苦悶煩悶を減殺してしまってはいないだろうか。外国文学研究に忠実であろうとするよりも日本文化批評として機能することを選んだ「竹内魯迅」の姿勢が、このような翻訳にも反映されているのではあるまいか。(p.119)」新書の方ではさらに自身の新訳も並べて説明している。新書も読んで無駄ではなかった。
翻訳というのはいろんな難しさがあってとてもここでは論じきれないが、読むときに訳されたものからちょっと距離を置いて眺めるくらいの目を持ちたいものだ。
植民地で強制された日本語で、 日本語の『阿Q正伝』が読まれ人々の意識を変えていった歴史、大江健三郎や村上春樹と魯迅との関係なども書かれていて興味が増した。
※ コメントは表示されないようになっていますが、書いていただければ私の方には届きます。
第461号 「故郷」の風景 の巻
2026年07月25日
第458号 めざめて人はどこへ行くか の巻
2026年07月19日
第453号 『魯迅』 の巻
2026年07月05日
『NHK人間講座 新・魯迅のすすめ』 藤井省三著 日本放送出版協会
2003(平成15)年2月1日 定価:本体560円+税
『魯迅――東アジアを生きる文学』 藤井省三著 岩波新書(新赤版)1299
2011年3月18日 第1刷発行 定価(本体800円+税)
固めて読むというのはなかなかいい。自分で復習しながら読んでいるようなもので小さい気づきもあるし、記憶に残りやすい。ひとつの読書の方法だと思うが、積んである本が減らないのも困る。
『NHK人間講座』という教育テレビの番
組がその昔あって、2003年2月から3月に9回にわたって藤井省三氏の講義があった。そのテキストが本棚にあって引っ張り出して読んだ。ドラマも続けてみるというのが苦手で、この23年前のテキストも買っただけで番組は見なかった。今見るとよくまとめてあり(上から目線だが)、読み応えもある。560円(税抜き)なら安いものだ。この番組は『NHK市民大学』、『NHK人間大学』という番組に続くもので、調べてみると講師陣は錚々たる人たちだ。もっと見ておけば良かったと思う。今でもこの枠は『先人たちの底力 知恵泉』や『100分de名著』といった番組が引き継いでいる形だと思われるが、なんとか視聴者にくいついてもらいたいという考えからか柔らかい切り口になりすぎていると思う。番組と連動するテキストも今はないようだ。今は若い人と話をしていて、「Eテレ」とか「教育テレビ」なんて言っても通じないかもしれない。何かについて知る必要があればYouTubeで検索して探せばいいと思って、はなからテレビというメディアは眼中にないかもしれない。そして製作サイドは、くいついてもらおうとさらに柔らかくするという変なすれ違いが起きるたりするのか。
話が逸れたが、魯迅の生まれから父の死、日本への留学、北京・上海時代そして死、のあとに日本や東アジアでの受容について述べている。魯迅が仙台から東京に戻った要因の一つを、シティボーイだったからと言っているのもおもしろい。
このあとで同じく藤井氏の『魯迅――東アジアを生きる文学』を読んだ。構成は『人間講座』のテキスト『新・魯迅のすすめ』とほぼ同じである。藤井氏が留学時代に紹興で撮った写真も同じだ。「あとがき」に「……NHK人間講座で『新・魯迅のすすめ』をお話しし、そして古典新訳文庫として『故郷/阿Q正伝』『酒楼にて/非攻』の二冊の短編集を翻訳しました。このような私の魯迅体験をもとに、最新の研究と批評とを加筆してまとめたものが本書」だとあるのを最初に見ていたら読まなかったかもしれないと思った。『故郷』が中学の国語の教科書に採用されていることは今までも何回か触れたが、『新・魯迅のすすめ』では氏は竹内好の訳について次のように述べている。「またこれらの国語教科書がすべてを竹内好訳を採用しているのは、竹内魯迅の影響力の大きさを示すものだろう。もっとも魯迅の文章は読点「、」による点切りを伴いつつ数行にわたって続き、その間にさまざまな思考をめぐらす屈折の多い文体を特徴とするのだが、竹内訳は句点「。」を多用して漢文調のように歯切れよく刻んでしまうことが多い。このような翻訳はリズミカルではあるが、魯迅が描こうとしていた苦悶煩悶を減殺してしまってはいないだろうか。外国文学研究に忠実であろうとするよりも日本文化批評として機能することを選んだ「竹内魯迅」の姿勢が、このような翻訳にも反映されているのではあるまいか。(p.119)」新書の方ではさらに自身の新訳も並べて説明している。新書も読んで無駄ではなかった。
翻訳というのはいろんな難しさがあってとてもここでは論じきれないが、読むときに訳されたものからちょっと距離を置いて眺めるくらいの目を持ちたいものだ。
植民地で強制された日本語で、 日本語の『阿Q正伝』が読まれ人々の意識を変えていった歴史、大江健三郎や村上春樹と魯迅との関係なども書かれていて興味が増した。
※ コメントは表示されないようになっていますが、書いていただければ私の方には届きます。
第461号 「故郷」の風景 の巻
2026年07月25日
第458号 めざめて人はどこへ行くか の巻
2026年07月19日
第453号 『魯迅』 の巻
2026年07月05日
『NHK人間講座 新・魯迅のすすめ』 藤井省三著 日本放送出版協会
2003(平成15)年2月1日 定価:本体560円+税
『魯迅――東アジアを生きる文学』 藤井省三著 岩波新書(新赤版)1299
2011年3月18日 第1刷発行 定価(本体800円+税)


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