本編の後にあとがきに当たる「作者口上」というのがあってその中でこの『魯迅――めざめて人はどこへ行くか』を書くことになったいきさつが述べられている。「ブロンズ新社のWさんが来訪され、小学生高学年から中学生を読者対象とした伝記シリーズを企画中だといわれた。ラインナップを見せてもらうと……中略……ひとわたりリストをながめたあとで、私は少し意地悪なことをいった。……中略……「日本人を別にすれば、ここにはひとりのアジア人もいません。それからアフリカ人も。……」という会話の後、四方田氏がアジア人について取り上げることになり、誰をとりあげるかと考えて魯迅が浮かび上がってきたということだ。2026.06.29魯迅めざめて
 「もとより私は中学文学者でもない。いわんや魯迅の専門的な研究者でもない。ご覧になっていただければ瞭然としているが、本書はいささかも独創的な事実や評言が語られているわけでもない。」と書いているが、これがいい方向に出ているように思う。自分がよく知りたいと思いながら調べて理解したことをほかの人にわかってもらおうと話すと、専門家が話すよりもわかりやすいことがある。そして熱感が伝わる。テスト前日に必死にまとめたノートを翌日友だちが見て手を離さなかったのと同じだ(ちょっと違うか)。専門の人には当たり前すぎて、知らない人の目線を持ちにくいのだろう。
 堯舜の時代に治水事業を成果を上げた禹の伝説と会稽の恥の勾践の故事から話し始め中国のイメージを持たせながら魯迅の故郷紹興を説明し魯迅にフォーカスしていく。四方田氏の考えによるものと思われるが、中国の人名・地名には中国語の発音をカタカナで表記している。
 『狂人日記』、『阿Q正伝』、『鋳剣』はあらすじとともに説明しているので魯迅の作品を読んでいなくても理解しやすい。帯にも書いてあるように大人が読んでもいいし、大学生にまず読む一冊として進めていいのでのではないかと思う。
 この「にんげんの物語 21世紀の伝記シリーズ」はほかに、ポルシェ、織田信長、ヒミカ、ゴッホ、植村直己、ビートルズ、手塚治虫、エジソン、長嶋茂雄が並ぶ全10巻のラインナップである。ヒミカは卑弥呼で中山千夏が書いている。全部読みたくなってきた。古いけれど図書館にあるかしら。 

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 『魯迅――めざめて人はどこへ行くか』 四方田犬彦著  ブロンズ新社
1992年2月25日 初版第一刷 定価1500円(本体1456円)
1995年8月25日 第二刷発行
挿絵 スージー甘金