漫画に原作者がある場合、例えば『北斗の拳』なら「原作 武論尊 漫画 原哲夫」のようになっている。小説などがもとにあれば「作・夢枕 獏 画・谷口ジロー のように表記されている( 第438号 神々の山嶺 の巻 )。」『「坊ちゃん」の時代』全五冊は第五部の巻末によると「このマンガ作品は谷口ジローと関川夏央の共著であり、どちらが主どちらが従ということはない。」とあり、いわば関川氏が「脚本であ」り、「谷口の職業は、映画でいうなら撮影と監督」、「キャスティング」であると書いている。
 二歳年上の谷口氏を畏友と呼ぶ関川氏の文章から、このマンガの製作過程はとても充実していたことが伺える。谷口氏がなくなってもうすぐ10年だ。2026.06.20坊ちゃんの時代全5巻
 この作品は1985年から12年に渡って製作された。振り返ればこの12年間も変化が大きかったが、明治時代というのはものすごい時代だったと思う。ついこの間までちょんまげを結って寺子屋に行って漢文の素読をして自分のいる藩の中で藩のために生きていくのだと思っていたのが、日本という国の中の1人という意識を持ち始め他の国と伍していくにはどうすればいいかを考えはじめる。維新から約30年後には大国ロシアと戦争することを考える。意識するとしないとにかかわらず自我は変革を迫られるが、人々の変化は一様ではない。年齢や所属の違う人たちが同時代を交錯していくのを読むのは興味深い。各巻ともタイトルの後に「凛冽たり近代 なお生彩あり明治人」という句がある。なんとなく背筋が伸びるようだ。
 第二部の最後、横浜へ向かうエリスを長谷川が見送る。この長谷川は長谷川 辰之助、二葉亭四迷である。傍らには犬のマルがいる。このマルの元の飼い主は樋口一葉だ。「一八八八年 秋長けた宵」「燈火の海のような銀座通りを横切って一輛の寂しい俥が芝の方へ駈けて行った」この1ページの絵はすばらしい。場面の設定はフィクションだが、人力車を引く仕立屋銀次という人物も実在の人物である。
 石川啄木は読んでてイタすぎる。人間の悲しさというか、これもこの明治という時代における、一つの自我の不安定さなのかもしれない。第四部は幸徳事件がテーマだが、漱石や啄木等とともに描かれるので時代が見える。
 この作品は第2回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作品である。ちなみにに第1回の大賞はというと、『ドラえもん』であった。えっ、今さら?という気もする。やはり、「賞の時代性を考慮し『ドラえもん』を特別賞枠に推す声もあったが、「これまでの業績」を含めた積極的評価が勝り大賞となった」という事情らしい。ということは『「坊ちゃん」の時代』が事実上の第1回の大賞ではないか。いや、第1回の優秀賞の萩尾望都の『残酷な神が支配する』か。関川夏央はこのとき選考委員でもあった。

 ★★★★★★

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 第438号 神々の山嶺 の巻 
 2026年05月01日



「坊っちゃん」の時代』』 関川夏央 谷口ジロー著   アクションコミックス 双葉社
一九八七年七月   九  日 第  一  刷発行  定価880円 (本体854円)
一九九四年四月 一七日 第一二刷発行
  

「坊っちゃん」の時代 第二部 秋の舞姫』 関川夏央 谷口ジロー著  アクションコミックス 双葉社
一九八九年十月二十八日 第一刷発行  定価970円 (本体924円)
一九九七年十月二十二日 第七刷発行  

「坊っちゃん」の時代 第三部 かの蒼空に』 関川夏央 谷口ジロー著  アクションコミックス 双葉社
一九九二年一月十二日 第一刷発行  定価1230円 (本体1171円)
一九九八年八月十三日 第十刷発行 
 

「坊っちゃん」の時代 第四部 明治流星雨』 関川夏央 谷口ジロー著  アクションコミックス 双葉社
一九九五年五月二十六日 第一刷発行  定価1100円 (本体1068円) 
 

『「坊っちゃん」の時代 第五部 不機嫌亭漱石』 関川夏央 谷口ジロー著  アクションコミックス 双葉社
一九九七年八月二十八日 第一刷発行  定価1200円 (本体1143円)
一九九八年八月  一三 日 第六刷発行