谷口ジローの作品は読者を日常から別の世界へ引き込む力がある。
村上もとかの『岳人列伝』を読んだ時( 第393号 )にあちこち検索していたら、谷口ジローの『神々の山嶺(「いただき」と読む)』「ほどではない」という記述を目にして読みたくなってしまった。
1924年にエベレスト登頂を目指すジョージ・マロリーとアーヴィンを最後にノエル・オデルが目撃した場面から始まり、1993年のカトマン
ドゥに舞台は移る。消息を絶ったジョージ・マロリーのものと思われるカメラを巡って物語が展開していく。文庫にして全5巻、読み応えは十分である。
原作は夢枕獏(1997年8月集英社)。第1巻の「『神々の山嶺』漫画版によせて」という夢枕獏の文章がある。その中で谷口ジローが『坊っちゃんの時代』で手塚賞を受賞したパーティーで映画監督の佐藤嗣麻子と夢枕獏が話をしていて漫画にするなら「谷口さんがいい」という話になりその場で佐藤氏が話をまとめたということだった。
山の描写はもちろん、カトマンドゥの町中の喧噪など作品の中にひとつの世界を創り出している谷口ジローのタッチはすばらしい。氏が亡くなってもう10年近くになる。本当に惜しまれる。あえて付け加えるが、『岳人列伝』とどっちがいいという話ではないと思う。
原作も読んでみたくなったが、谷口作品のイメージで脳がかたまってしまったのと思ったので手を出さないことにする。
知らなかったのだが、映画化されていた。これを映画にするのはさぞ大変だろうと思い、すぐにレンタルした。キャストは気になる。阿部寛はいい。岡田准一はどうか。尾野真千子は自分的には合わないと思う。標高5200mでのロケは苛酷だったろう。映画だけ見たら満足したかもしれないが、時間的な制約で描ききれないところもあったろうし、やはり谷口作品のほうがインパクトが強い。時間は122分。
さらに2021年にフランスでアニメーション映画化されている。94分の作品。谷口『神々の山嶺』フランス語版は累計38万部以上売り上げられているそうだ。こちらもアニメーションでどう表現するか興味がありすぐに借りた。脚本のところどころに日本らしさを表現する工夫があっておもしろい。深町の危機を描くシーンは意見が分かれるところかもしれない。
実写映画は「前に進む熱い思い」、フランスのアニメは「なぜ山に登るのか」に重点があるように思った。谷口作品には人間が生きていく中に潜む悶々たるものがあって、これを描き出すのは長編漫画にこそできることだろう。原作も読みたくなるのでそこは我慢。
ちなみに、ジョージ・マロリーというと「そこに山があるから」という言葉がついて回る。この言葉は「なぜあなたはエベレストに登りたかったのですか(Why did you want to climb Mount Everest?)」という質問にマロリーは、"Because it's there."と答えた(1923年3月18日付のニューヨーク・タイムズの記事)の元である。であるから、「そこにエベレストがあるから」と訳すべきなのだが、「山」全般を指す訳になって、しかもインタビューの答えの部分だけ流布してしまった。山に登る理由としてこんな形で伝わったのは日本だけなのかもしれない。
※ コメントは表示されないようになっていますが、書いていただければ私の方には届きます。
第393号 岳人列伝 の巻
2025年11月27日
第350号 死に方は生き方か の巻
2025年04月01日
『神々の山嶺』 作・夢枕獏 画・谷口ジロー
集英社文庫(コミック版)定価648円+税
1・2 2006年10月23日 第1刷
3 2006年12月19日 第1刷
2012年11月11日 第8刷
4 2006年12月19日 第1刷
2011年 9 月 6 日 第6刷
5 2007年 1 月23日 第1刷
★収録作品はビジネスジャンプ2002年19号~24号、2003年1号7号に掲載されました。
(この作品は、ビジネスジャンプ 愛蔵版として2003年5月に、集英社より刊行された。)
村上もとかの『岳人列伝』を読んだ時( 第393号 )にあちこち検索していたら、谷口ジローの『神々の山嶺(「いただき」と読む)』「ほどではない」という記述を目にして読みたくなってしまった。
1924年にエベレスト登頂を目指すジョージ・マロリーとアーヴィンを最後にノエル・オデルが目撃した場面から始まり、1993年のカトマン
ドゥに舞台は移る。消息を絶ったジョージ・マロリーのものと思われるカメラを巡って物語が展開していく。文庫にして全5巻、読み応えは十分である。原作は夢枕獏(1997年8月集英社)。第1巻の「『神々の山嶺』漫画版によせて」という夢枕獏の文章がある。その中で谷口ジローが『坊っちゃんの時代』で手塚賞を受賞したパーティーで映画監督の佐藤嗣麻子と夢枕獏が話をしていて漫画にするなら「谷口さんがいい」という話になりその場で佐藤氏が話をまとめたということだった。
山の描写はもちろん、カトマンドゥの町中の喧噪など作品の中にひとつの世界を創り出している谷口ジローのタッチはすばらしい。氏が亡くなってもう10年近くになる。本当に惜しまれる。あえて付け加えるが、『岳人列伝』とどっちがいいという話ではないと思う。
原作も読んでみたくなったが、谷口作品のイメージで脳がかたまってしまったのと思ったので手を出さないことにする。
知らなかったのだが、映画化されていた。これを映画にするのはさぞ大変だろうと思い、すぐにレンタルした。キャストは気になる。阿部寛はいい。岡田准一はどうか。尾野真千子は自分的には合わないと思う。標高5200mでのロケは苛酷だったろう。映画だけ見たら満足したかもしれないが、時間的な制約で描ききれないところもあったろうし、やはり谷口作品のほうがインパクトが強い。時間は122分。
さらに2021年にフランスでアニメーション映画化されている。94分の作品。谷口『神々の山嶺』フランス語版は累計38万部以上売り上げられているそうだ。こちらもアニメーションでどう表現するか興味がありすぐに借りた。脚本のところどころに日本らしさを表現する工夫があっておもしろい。深町の危機を描くシーンは意見が分かれるところかもしれない。
実写映画は「前に進む熱い思い」、フランスのアニメは「なぜ山に登るのか」に重点があるように思った。谷口作品には人間が生きていく中に潜む悶々たるものがあって、これを描き出すのは長編漫画にこそできることだろう。原作も読みたくなるのでそこは我慢。
ちなみに、ジョージ・マロリーというと「そこに山があるから」という言葉がついて回る。この言葉は「なぜあなたはエベレストに登りたかったのですか(Why did you want to climb Mount Everest?)」という質問にマロリーは、"Because it's there."と答えた(1923年3月18日付のニューヨーク・タイムズの記事)の元である。であるから、「そこにエベレストがあるから」と訳すべきなのだが、「山」全般を指す訳になって、しかもインタビューの答えの部分だけ流布してしまった。山に登る理由としてこんな形で伝わったのは日本だけなのかもしれない。
※ コメントは表示されないようになっていますが、書いていただければ私の方には届きます。
第393号 岳人列伝 の巻
2025年11月27日
第350号 死に方は生き方か の巻
2025年04月01日
『神々の山嶺』 作・夢枕獏 画・谷口ジロー
集英社文庫(コミック版)定価648円+税
1・2 2006年10月23日 第1刷
3 2006年12月19日 第1刷
2012年11月11日 第8刷
4 2006年12月19日 第1刷
2011年 9 月 6 日 第6刷
5 2007年 1 月23日 第1刷
★収録作品はビジネスジャンプ2002年19号~24号、2003年1号7号に掲載されました。
(この作品は、ビジネスジャンプ 愛蔵版として2003年5月に、集英社より刊行された。)



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