ひょんな理由から図書館で『男どき女どき』を借りた。最初だけ読んで返すつもりだったが、最後まで読んでしまった。実は、ひょっとしたら読んだことがあったのかもしれないという気がしてきて、確認したいような気持ちで最後まで読んでしまったのだ。何十年も前に職場の先輩から「買っていたのを忘れていて同じCDを買っちゃったからあげるよ。」と言われて、うれしかったと同時に「なんでそんなことが起きるのだろう?」と思ったことがあり、自分にもそんなことが起きたかと思ってしまった。
 載っている短編小説4篇とエッセイ21篇だ。小説は、昭和56年7月から10月に『小説新潮』に掲載されたものだが、向田邦子は昭和56年8月22日に台湾2026.03.11男どき女どきへの取材旅行中飛行機事故で亡くなっている。エッセイは昭和48年から56年のものである。初出誌一覧のさいごに(御遺族と相談の上、編集部の責任で編集しました)とあるので、出版するには遺稿となる短編小説4篇だけでは少ないのでエッセイが足されのではないか。とすれば、どこかで読んだエッセイがあってもおかしくないので、自分の脳みそももう少しは働いてくれそうでちょっとだけ安心した。
 エッセイにはつとにファンが多かった。1980年の『思い出トランプ』収録の小説で直木賞を受賞している。今思うと、最近直木賞を受賞した作品とは趣が違う感じがする。直木賞を受賞したころにはNHKの『阿修羅のごとく』や『あ・うん』の脚本家として広く知られるようになり、遡って『寺内貫太郎一家』や『時間ですよ・昭和元年』の脚本を書いていた人だったのかと思ったように記憶している。
 若い頃、どんな本を読むんですかと聞くと向田邦子の名を挙げる女性がいたように思う。最近はそんな会話も成り立たない。向田氏は昭和4年生まれだからエッセイの中で触れている内容も戦前のものもある。『ゆでたまご』は涙が出そうになった。『無口な手紙』では「いい手紙、特にハガキは、字余りの俳句に似ている。」というセンテンスもいいが、後半はこれまたジーンときてしまう。思いがけずこの本を読んで、こんなエッセイにはなかなかお目にかかれないかもしれないと思った。
 ちなみに昨年のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』で河合優美が演じた主人公の妹蘭子のモデルは向田邦子と言われている。

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男どき女どき (新潮文庫)
邦子, 向田
新潮社
1985-05-28



『男どき女どき』 向田邦子著  新潮文庫 む-3-4 
昭和 六 十  年  五  月二十五日  発               行     本体550円(税別)
平成二十三年  七  月    五    日  六十一刷改版
令和  五     年十二月     五    日  七  十  一   刷 
解説 風間完

この作品集は昭和五十七年八月新潮社より刊行された。