「岳人」と書いて「クライマー」と読む。『岳人列伝』、村上もとかのコミックである。
 9月18日の朝日新聞夕刊「一期一会」というコラムに村上氏が出ていて氏のことが気になって調べてこの作品が目についたのだ。剣道や医者、旧満州を舞台にしたものなどジャンルの幅が広い。氏が登山を題材にした作品を描いているのを知り取り寄せた。コミックの文庫版は好きではないのだが、今から43年前の作品なのですぐに手に入るものはこれだった。2025.09.29岳人列伝
 登山家だけでなくシェルパにも焦点を当てている。1話はエベレスト南西壁国際登山隊に雇われたシェルパ頭と隊員との交流が描かれ、第2話・第6話ではシェルパの村が舞台である。
 第4話「遠い頂」はモーリス・ウィルソンがエベレスト登頂に挑んだ話がベースになっていると思われる。『山男たちの死に方』山際淳司著( 第350号 死に方は生き方か の巻 )に出ていたと思う。雪崩のシーンなども『山男たちの死に方』に出てきた描写を思い出した。
 登山について村上氏がよく調べたのだと思わされるリアルな書きっぷりで、登山者達の表情、山の情景もダイナミックに描いている。
 自分の大事なものを手にしたいという気持ちは時にエゴイストにし時に自らの命を省みないことになる。それがなぜか時に魅力的に見える。
 文庫版のいいところは巻末にプラスアルファがあるところだ。この本は著者のインタビューが載っていた。氏は「僕はボーダーというか、何かの境を描くことが好きなんですね。国境、運命の分れ道、生死の境……。」と言っている。「平凡な人間が人生で一度だけ安全地帯からはみ出す瞬間」という“境”を描こうとした経験は財産だとこの作品を振り返っている。
 この作品は1982年の講談社漫画賞を受賞している。ちなみに同年の小学館漫画賞はあだち充の『タッチ』が受賞している。

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 第350号 死に方は生き方か の巻 
 2025年04月01日



『岳人列伝』村上もとか著  小学館文庫むA-42
2011年5月19日  初版第1刷発行   ¥743+税
 初出「少年ビッグコミック」 
第1話「南西壁」1980年第11号~第8話「K2」1982年第16号