私が中国にいたのは1992年から1994年にかけてのことである。その頃はまだインターネットもなく、日本でもコンピューターも一般的でなく、文章を書くのには「ワープロ」という専用機を使っていた。
 中国で日本語の情報を得るには短波ラジオを聞くか、一週間遅れで届く新聞を購読するしかなかった。朝日新聞を取っていたが、購読料は五倍くらいしたのではなかったろうか。
 日本語の活字は前任者の置いていった本と日本領事館の図書室(だったかな?)の本だった。そこには滞在した日本人が帰国の際に寄付して置いていった本が集められていて、時々自転車で出かけては借りて本を読んでいた。
 その頃読んだものの一つに伴野朗の『五十万年の死角』がある。著者が言っているように「史実を背景に借りて、フィクションをふくらませて」書かれていてとてもおもしろかった。江戸川乱歩賞受賞作品である。
 読んでおもしろければ、その著者の作品を続けて読みたくなるが、中国の瀋陽市にいたのでそんなわ2025.09.16九頭の龍けにはいかない。帰国後、古本屋で目についたものを買ったが、日本に帰ってからは忙しくなってしまい、本を読む時間は贅沢な時間となってしまった。最近本棚から手にしたのが、『九頭の龍』である。1984年の発行で紙も黄ばんでいる。が、本というのは傷んでいても活字がしっかり見えさえすれば読めるのだ。電子書籍は電池が切れたら読めないし、データが飛んだら二度と読めない。紙の本はすばらしい。
 明治期の日本の軍艦「畝傍」が消息不明となった史実をもとに、ベトナムの抗仏運動をからめた時代エンターテイメントである。19世紀のフランス植民地主義とベトナムの状況、それと日本の様子が横断的に見えて、知識が増えた気になった。
 ネタバレになるので控えるが、多少ありがちな設定はあるが、それを上回る面白さである。伏線というのはわかりすぎては興ざめだが、読者がある程度「これは伏線だな」と感じられないとおもしろくない。読んでいて早くストーリーを追いたくなった。
 本は古いが、読む楽しさはまったく古くない。
 ★★★★★☆4.5にしよう。

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九頭の龍 (講談社文庫)
伴野朗
講談社
2020-07-10






『九頭の龍』伴野朗著 講談社文庫 と 4 5
昭和59年8月15日第1刷発行  ¥440