『千日紅の恋人』帚木蓬生著をひと月くらい前に読了。久しぶりの帚木氏の作品であった。氏の著作を読んだのは、実は小説が初めてではなかった。だいぶ前のことになるが、神経症や精神疾患の治療のひとつ、森田療法に興味があって『森田療法』(講談社現代新書 824岩井 寛著)を読んだ。日常にも生かせると思うところも多かったように思ったのだが、しばらく忘れていた。10年くらい前にまた思うところがあり森田療法について書かれた本を調べていたら、帚木蓬生氏の『生きる力』森田正馬の15の提言 (朝日選書) に出会って読んだのが始まりである。
 この本はとてもわかりやすく書かれていたが、説明に出てくる例えや引用などが豊富で著者の博識ぶりがうかがわれた。経歴は東大の仏文科を卒業後TBSに就職し、その後九大の医学部に入り精神科医になり執筆活動もしていることを知り、興味が増して小説も2024.12.07千日紅の恋人読むようになった。興味を持つと初期の作品から読みたくなるので、『白い夏の墓標』、『十二年目の映像』、『カシスの舞い』、『空の色紙』などを読んだ。氏の経歴を生かした放送メディアや精神医学に関連したものが多いが、『三たびの海峡』は戦争と日韓関係を題材にしているし、『ソルハ』は児童向けに書かれたアフガニスタンの少女の話である。画像の帯の裏側には「帚木蓬生の豊穣な小説世界」というキャッチコピーがあるが、確かに氏の描く題材は広い範囲に及ぶ。
 今回の主人公の時子さんは、冒頭の場面で一時停止違反で切符を切られてモヤモヤが残っていて交番の警官がちゃんと仕事をしているかちょっと観察してしまったりする、庶民的な30代の女性。仕事とは言え時に相手にきつい台詞を言ってしまったりこともある。決して完璧な人間ではない。しかし、これから生きていく時間に漠然とした不安を抱えながらもその時その時を真面目に生きている。そんな人に幸福が訪れる。なんだか現代版の仏教説話のようである。2005年に刊行されているが、昭和のテレビドラマのような雰囲気がある。
 恋のお相手も「そんな好青年いるか」という感じなのだが、この小説のところどころに高齢化社会の問題や病気や悩みを抱えている人とどう関わっていくかなどについて考えさせられるところもある。久しぶりに帚木氏の作品を読んでまた他の作品も読みたくなった。
 
 2024年もあと数時間。
 どうぞ良いお年をお迎えください。

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千日紅の恋人(新潮文庫)
帚木 蓬生
新潮社
2014-11-21


『千日紅の恋人』 帚木蓬生著 新潮文庫 は 7 18
平成二十年四月一日発行  ¥590+税 
この作品は二〇〇五年八月新潮社より刊行された。