先月、 第315号 『北帰行』 の巻 で外岡秀俊氏について触れたが、氏は中原清一郎というペンネームもある。記者の仕事をしていた時と、小説を書く時と使い分けていたのだろうか。
 朝日新聞の「ひもとく」というコラムがあるが2022年2月に外岡氏と高校の同級生である久間十義氏が執筆していて、外岡氏が学生時代に文藝賞を受賞したときの思い出を語ったり、著作を紹介したりしている。その中にエンターテイメントのジャンルに入る小説『ドラゴン・オプション』があり読んでみたくなった。例によって古本を買った。単行本だ。2024.08.16ドラゴン・オプション
  主人公は日本人だが、物語の発端はロンドン。舞台は香港に飛び、後半では中国の深圳に入り込んでいく。深圳と私は書いたが、中国の地名は香港以外はみな架空だ。架空の地名にしないとまずいのだろうか。香港での人物たちの動きがとてもスピード感があってスリルがあるのは通りや街の名前がリアルだからだと思う。中国もリアルな地名で描いてほしかった気持ちがあるが、読む人が読めばどこのことか、また似たようなあの事件のことだとかわかるのかもしれない。
 前述の新聞記事で久間氏は「濃密な風景描写、緻密なディテールに魅了されて、この小説を携えて香港のそこかしこを訪ねたくなる読者も多いはずだ。」と書いている。そして、「作者である外岡の案内で、仲間と一緒に懐旧旅行で香港を経巡りたいと切実に思う。しかしそれは叶わない。彼はもういない。」と友を失った悲しみを綴っている。
 ネタバレになるのでこれ以上は書かない方がいいかもしれない。若いうちから文章力のあって、元新聞記者が書いたエンターテイメントと聞けば読みたくなるだろう。あとから「ああ、だからそういう設定にしていたのか。」なんて思うところがあったが、それもエンターテイメントの面白さのうちだろう。帯にあるようにロンドン、香港だけでなく、パリやスイスにも舞台は動く。スケールの大きさは楽しさと直結する。
 読書の楽しみを味わうべし。
 私評 ★★★★☆

ドラゴン・オプション (小学館文庫)
中原清一郎
小学館
2016-08-26

 

『ドラゴン・オプション』 中原清一郎著 小学館
¥1800円+税
2015年4月6日 初版第一刷発行
  
 第315号 『北帰行』 の巻  
 2024年08月17日