昨年の夏、北海道で中国語を教えておられた先生から授業で使った資料を送っていただいた。その参考図書リストの中にあったのが、この『流』という小説だ。気になっていたのだが、先頃読み終えた。作者の東山彰良氏は2015年にこの作品で直木賞を受賞している。
本の帯には「選考委員満場一致」、「北方謙三氏『二十年に一度の傑作』」という文句が並んでいてかなり話題になったのだろう。が、残念なことに私の記憶にない。2015年はどんな年だったかな。
この小説は、青春小説でもありミステリーでもあり、エンターテイメントでもある。台湾の社会、文化についても雰囲気を伴ってわかるし、中国の歴史もわかる。 第311号 『風神雷神』 の巻 でも思ったことだが、時代の中で人物が動くことで歴史がリアルに見えてくる。
読んで楽しんでもらうためにあまり内容については触れないようにしたい。
台湾には二度ほど行ったことがある。台北の
二二八記念館にも行ったことがある。張さんというボランティアガイドが日本語で熱心に解説してくれたのは強烈な思い出だ。台湾に関する本も何冊か読んでいる。大陸の人と台湾について話をしたこともある。台湾や中国についてある程度は知っている方だと思う。だが、この小説を読んで簡単に説明できるようなことではないと改めて思った。
外省人と本省人、国民党側で戦ったもの共産党側で戦ったものなど簡単に線引きできるわけではない。生身の人間が生きていれば自分の意志だけでなく時代の流れ、その時の偶然など様々なことで生きる道が決まることもある。思想や信条などは後付けなのかもしれない。何か言いたいのかよくわからないかもしれないが、読んで損はないと思う。
レビューの中では、中国人の名前が覚えにくくて登場人物がわかりにくくて読みにくかった、というような感想があった。出版社もそう思ったのか、しおり代わりに登場人物をまとめたカードが挟んであった。普通の文庫としては珍しい。私は中国人の名前が出てくると、中国語読みをして頭に入ってくるせいか人物がそんなにごちゃごちゃになることはなかった。けれど、中国語に接していない人にとっては自然な感想なのだろう。それでこの小説を楽しめなかったとしたらちょっと残念だ。
他の作品は未読だが、作者の力強い文章力も魅力だ。台湾で生まれ、広島福岡で育ち、日本の大学、大学院、社会人の経験、吉林大学の博士課程に籍を置いたことなどいろいろな言語体験が育んだものかもしれないと思った。
★★★★★☆
『流』東山彰良著 講談社文庫 ひ 58
定価880円+税
2017年7月14日 第1刷発行
2017年9月20日 第3刷発行
本書は二〇一五年五月、小社より単行本として刊行されました。
第311号 『風神雷神』 の巻
2024年08月12日
本の帯には「選考委員満場一致」、「北方謙三氏『二十年に一度の傑作』」という文句が並んでいてかなり話題になったのだろう。が、残念なことに私の記憶にない。2015年はどんな年だったかな。
この小説は、青春小説でもありミステリーでもあり、エンターテイメントでもある。台湾の社会、文化についても雰囲気を伴ってわかるし、中国の歴史もわかる。 第311号 『風神雷神』 の巻 でも思ったことだが、時代の中で人物が動くことで歴史がリアルに見えてくる。
読んで楽しんでもらうためにあまり内容については触れないようにしたい。
台湾には二度ほど行ったことがある。台北の
二二八記念館にも行ったことがある。張さんというボランティアガイドが日本語で熱心に解説してくれたのは強烈な思い出だ。台湾に関する本も何冊か読んでいる。大陸の人と台湾について話をしたこともある。台湾や中国についてある程度は知っている方だと思う。だが、この小説を読んで簡単に説明できるようなことではないと改めて思った。外省人と本省人、国民党側で戦ったもの共産党側で戦ったものなど簡単に線引きできるわけではない。生身の人間が生きていれば自分の意志だけでなく時代の流れ、その時の偶然など様々なことで生きる道が決まることもある。思想や信条などは後付けなのかもしれない。何か言いたいのかよくわからないかもしれないが、読んで損はないと思う。
レビューの中では、中国人の名前が覚えにくくて登場人物がわかりにくくて読みにくかった、というような感想があった。出版社もそう思ったのか、しおり代わりに登場人物をまとめたカードが挟んであった。普通の文庫としては珍しい。私は中国人の名前が出てくると、中国語読みをして頭に入ってくるせいか人物がそんなにごちゃごちゃになることはなかった。けれど、中国語に接していない人にとっては自然な感想なのだろう。それでこの小説を楽しめなかったとしたらちょっと残念だ。
他の作品は未読だが、作者の力強い文章力も魅力だ。台湾で生まれ、広島福岡で育ち、日本の大学、大学院、社会人の経験、吉林大学の博士課程に籍を置いたことなどいろいろな言語体験が育んだものかもしれないと思った。
★★★★★☆
『流』東山彰良著 講談社文庫 ひ 58
定価880円+税
2017年7月14日 第1刷発行
2017年9月20日 第3刷発行
本書は二〇一五年五月、小社より単行本として刊行されました。
第311号 『風神雷神』 の巻
2024年08月12日

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