「雨の中のチェロ、パリ」という写真を見た。写真と言うより記事だ。朝日新聞夕刊2023年7月4日(火)の美の履歴書という連載記事だ。写真は著作権があるので勝手に載せられない。「雨 チェロ パリ」で検索すれば出てくるので見て欲しい。
 画面の中央にチェロケースが立っている。隣にいる男は自分が濡れているがチェロに傘を差し掛けている。ちょっと小高いところなのか歩道の柵越しに市街が見下ろせるようだ。左には雨の中イーゼルを立てて絵を描いている人がいる。石畳がパリらしさを出している。空が重々しい雲で覆われている。右の街灯があるので写真全体のバランスに落ち着きがあるようだ。フランスらしい諧謔があるようにも感じる。
 記事には、今東京都写真美術2023.07.15本橋成一とロベール・ドアノー館で「本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語」展を開いているとあり、週末見に出かけた。東京都写真美術館に行くのも初めてだし、ひょっとしたらちゃんとした写真展というものに行くのも初めてだったかもしれない。
 「この写真は見たことがあるような。」「これってドアノーの作品だったんだ。」なんて思いながら楽しんだ。本橋成一の作品は最近のものでもモノクロである。氏のインタビュー動画がロビーで流されていて、「写真は想像力を働かせるもの」というようなことを言っていた気がするが、モノクロの写真は見る側の想像力をより刺激するかもしれない。
 展示されている「雨の中のチェロ、パリ」は28cm×22.4cmで、素材はゼラチン・シルバー・プリントだ。写真というのは撮影して暗室で現像し「手焼き」するところまでが作品作りなのだろう。実際にフレームの中の作品を見ると空の陰影のグラディエーションが微妙にありアスファルトの雨のたまった質感も厚みをもって感じられた。そのせいだろうか、美術館に入るまでは絵はがきかクリアファイルをきっと買うだろうなと思っていたのに、売店で手に取るとフレームの中の微妙な奥行きが見えなくて買う気が失せてしまった。絵画展なら本物を見たときの感覚の違いなど気にせず、気に入った絵はがきを買うのに。
 さて、雨の中でチェロに傘を差し掛けているという写真は何かが引っかかっていた。ようやく思い出した。

 倉田澄子先生の「チェロ講座」というDVDのジャケットデザインだ。雑誌の広告ページで見たときはVHSのテープだった気がする。高価だが思い切って買おうか迷った思い出がある。倉田澄子先生といえばポール・トルトゥリエの直弟子である。いわゆるトルトゥリエメソッドも気になった。
 さて、この写真は編集者のアイデアか倉田先生のアイデアかわからないが、ドアノーの作品からヒントを得たものなのだろうか。本人にお尋ねするしかない。
 ちなみに「雨の中のチェロ、パリ」は1957年の作品である。